Ai AF Nikkor 50mm F1.4 分解清掃

 ――オートフォーカスの効く標準レンズが欲しい。

 そう、人はひとたび手にしてしまった利便性を手放せないのです。レンズには電子回路が内蔵され、自動焦点装置が組み込まれ、手振れは角速度センサが感知して補正光学系が打ち消します。目測でピントを合わせるですと? なんと前時代的な。

 こうして気付けば手元に AF Nikkor があったのでした。標準単 5 本目にして初めての AF レンズ、ようやく時代に追いついた。


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 なぜか大沢商会のレンズキャップがついているのはさておき相場よりずいぶん安く入手できたと思っていたら、どうやらこれは距離エンコーダが内蔵されていない Ai AF 無印タイプ、の後期型 *1。文献を紐解けば AF カップリングを内蔵した Nikkor の 50/1.4 は大まかに分けて 3 種類、Ai Nikkor 50/1.4 の光学系をオートフォーカス機構とともにエンプラ外装に詰め込んだ Ai AF 無印前期型、ラバー製ピントリングをはじめ外装をマイナーチェンジした無印後期型、距離エンコーダを搭載した Ai AF-D タイプ、さらに AF-D は生産国の違いとコーティングの刷新によってさらに 3 種類に細分され都合 5 種類の Ai AF 50/1.4 が存在するという複雑さ *2。まあ細かい違いはさておき、ボタンを押したら勝手にピントが合ってパシャリとシャッターが落ちてくれさえすれば万事問題ないわけです。


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 問題ない……


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 カビ玉やんけ!!!!!

 幸か不幸かカビは前玉の裏に二箇所、レンズの中ほどに一箇所でさほどひどくありませんでした。というわけでやっと本題ですが、自分でバラして清掃したのでその備忘録です。機械。分解。浪漫あふれる響きです。


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 お決まりですが、まずレンズの銘板を外します。これまたお決まりですが、レンズ分解用に売っているゴムリングの代わりに吸引ろ過に使う漏斗のアダプターを使います。安いので。物自体もきっと同じものです。ええいめんどうくさい、という人は銘板の上に輪ゴムを載せて小瓶でひねってみたり、まあいろいろ方法があると思います。銘板が外れましたらネジが 3 本現れますので、これまた外します。そうすると金属製の薄いプレートと、プラ製の土台がするっと外れます。


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 そうしますと前群ユニットを固定しているネジが 2 本見えますので、さらにさらに外します。その下の赤いネジロックが塗られているネジは、今回はノータッチです。そうしましたらば、ひっくり返すと前群ユニットが丸ごと脱落しますので、気を付けて取り出します。


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 前群ユニットは貼り合わせなしの 3 群 3 枚で、Ai AF 無印タイプは黒い金属製のケースに収められています。ネジ蓋(写真の銀色の部分)で 3 枚目のレンズを押さえるように嵌合されているので、ひねって外します。ネジロックが塗られていますがちょっと力を入れると簡単に外せます *3


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 ネジ蓋と 3 枚目のレンズは一緒に外れますので、ひっくり返すと固定されていない 2 枚目が落ちてきます。固定されていないとはいっても隙間はかなりタイトなので、特に組み付けるときに無理やり押し込むと食い込んでどうにもならなくなります。優しく丁寧に。前玉たる 1 枚目は金属ケースに固定されています。こうして無事に前群がバラせましたので、カビ取りクリーナーなりエタノールなりで丹念にカビ取りをしたら、逆の手順で元に戻していきます。カビの周りはコーティングが食われて円形ハゲになっている可能性大ですが、カビレンズの宿命なのでこればかりはあきらめましょう。ちなみに、相当気を付けているつもりでも簡単に埃が入り込みますので、組み込み前にブロワーでよく吹くと良いです。


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 レンズの中ほどのカビは、後群の一番前、4 枚目の表面でしたので、今回は後群をバラさずに済みました。後群ユニットのすぐ手前には絞り羽根がありますので、拭いているときにぐりぐりして壊さないように気を付けましょう。特に絞り環が f/1.4 の全開状態になっていると絞り羽根の存在に気が付きにくいので、作業前に絞りの位置を確認しておくのが吉。


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 こうして無事レンズに蔓延っていたカビキングを退治し、気兼ねなく他のレンズと一緒に保管することができるようになりました。カビが伝染るかもしれないと精神衛生上よくないですからね。皆さんもカビのない快適沼ライフをお送りください。


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吸引ろ過アダプタのご用命はこちらから。今回は No.4 がちょうどよいサイズでした。

*1:どうして現行の(AF-D も現行ですが)AF-S の G タイプじゃあかんのかというと、ボディ内モータで動く Ai AF(-D) のほうが合焦速度が速くてスナップ向きとか、フイルム時代の設計で白飛び黒つぶれには弱いがコントラストが高いとか、能書きはあれこれありますけれどもあなた、古いレンズをジーコジーコさせて写真撮りたいじゃあないですか。ジーコジーコレンズ。ジャパニーズトラディション。これがクールジャパンなのか。

*2:まにやっくな詳しい話はその道のまにやがまとめてくれていますので、ここ(Nikon Lens Versions and Serial Nos)とかここ(1900年代ニッコールレンズ カテゴリー別一覧 (By キンタロウ))をご覧いただくのが良いでしょう。

*3:握力 30 kg の貧弱マンでも外せる。固い場合はゴム手袋などを試してみよう。